商標審査基準の改定

東海支部委員会スタート

 青葉が目に眩しいこの頃、皆様いかがお過ごしでしょうか。今年のゴールデンウィークは、1週間以上休まれた方も多いかと思います。弊所では海外との連絡も多いため、毎年この時期になると、ゴールデンウィークの世界標準化を願うと共に、渋滞情報を見ながらドライバーの皆様の安全を祈念しております。

 若干スローペースではありますが、弁理士会東海支部での委員会活動が4月末よりスタートしました。弁理士会には、有志の弁理士による「委員会」という集まりがあり、各委員会に分かれて、法律の研究を行うことで会員の能力向上や法改正への提言を行ったり、知的財産制度の普及や企業支援を行ったりしております。こうすることで、弁理士会としても、社会貢献を目指しております。もっとも、近年は弁理士の会員数が増えているにもかかわらず、「有志」の数が増えないことが問題として出始めておりますが・・・。

 それはさておき、私は知的財産支援委員会に配属が決まりました。この委員会は、例年中小企業に対する支援事業を行っている委員会で、展示会等で無料相談会を行ったり、休日パテントセミナーと題してイベントを開催したりしております。今年どのような形で活動していくかはまだ固まっていない部分が多いですが、中小企業支援を軸に活動していきますので、委員会活動を通して有益な情報が得られた場合には、こちらでも紹介させて頂きます。

商標審査基準の改定

 さて、前回に引き続き商標の話題となってしまいますが、今回は4月1日より施行された商標審査基準[改訂第13版]を取り上げさせて頂きます。まず、「商標審査基準」とは、特許庁が商標登録出願の審査を行う際の基準を示したものです。商標権として登録される基準は商標法で定められていますが、特許庁が商標法をどのように解釈し、どのような基準で審査を行っていくかを具体的に示したものが、この商標審査基準です。この基準は「法律」ではなく、特許庁が発表している「基準」ですので、国会の承認を経ることなく、特許庁が適宜変更します。このため、法律と比較して時代の変化に柔軟に対応できるというメリットがありますが、毎年のように(複数回)変更されるため、いつの間にか変更されているという事態が起きないよう、十分注意が必要です。今回、この商標審査基準において、商標法第4条第1項各号に関連する部分が大きく改定されましたので、その一部をご紹介させて頂きます。

画一的から実情考慮に

 商標法第4条第1項では、商標が登録できない理由が列挙されており、第4条第1項のいずれかに該当する場合には、登録を受けることができません。そして、この商標法第4条1項11号では、「先に登録された他人の登録商標と同一又は類似する商標等が同一又は類似する商品等に登録されている場合」に登録を受けられない旨が規定されています。

 従来の商標審査基準では、審査官の審査負担軽減の目的もあり、各条項に該当するか否かの判断が画一的に判断される傾向がありました。このため、実情を考慮すると該当しないと考えられる場合には、(審査段階で認められない事を承知で)審査を受けた後、より上級審である審判段階に進むという迂遠な手続が必要であり、出願人にとって負担となる場合がありました。今回の商標審査基準の改定により、従来は審査段階では認められにくかった実情についても、審判段階に行くことなく認められる可能性が出てきたという点では、出願人側にとって好意的な変更であったと考えております。

 一方で、実情を考慮するということは、審査官の裁量の余地が増えることであり、審査官による基準のバラツキが発生する可能性が高くなります。このため、登録の予測可能性という観点から考えると、弁理士にとっては、少し厳しい改正でもあります。現段階では、具体的にどのような状況を実情として考慮し、どの程度の影響度で考慮するかについては明記されておりませんので、しばらくは審査の傾向を注視して、見極めていきたいと考えております。

「他人」の基準

 さて、先ほどの4条1項11号には「先に登録された他人の・・・」と規定されておりますが、この「他人」の基準について、触れさせて頂きます。従来の基準では「他人」とは「名称及び住所が同一でない人」という形で判断されており、親会社と子会社、グループ会社等関連企業であっても、住所が同一であっても、出願人名が1文字でも異なっていれば、他人として判断されました。しかし、今回の改定において、名称が同一か否かという形式的な基準だけでなく、株式等で支配関係にある場合等、実質的な会社の関係を考慮する旨が明記されることになりました。このため、例えば、グループ会社が似たような商標を使いたい場合には、従来は、最初に商標を取得した会社が商標権を取得した後に使用する会社に譲渡するという手続が必要でしたが、今後は、このような手続を行うことなく、商標権を取得できる可能性があります。

大衆薬と医療用医薬品は同じ?

 次に、4条1項11号に規定する「同一又は類似する商品等」の部分について触れさせて頂きます。具体的には、登録しようとする商標の商品と既に登録されている商標の商品とが似ているか否かを判断する場合に、従来は、「大衆薬」も「医療用医薬品」も同じ「薬」と判断されていたため、例えば、「大衆薬」を指定商品とした商標が先に登録されていた場合、同一の名称について「医療用医薬品」の登録を受けることは、(審査段階では)認められませんでした。しかし、この改正によって、「大衆薬」と「医療用医薬品」のように商品の流通経路が異なる場合や、商品が「女性向け」か「男性向け」かのように、需要者の性別が異なる場合等については、画一的に同一商品と判断することなく、取引実情が考慮される点が明記されました。今後は、需要者や商品の性質等を理由として商品が同一又は類似するか判断されることになり、既に似たような商標が登録されている場合であっても、登録される可能性が高くなります。

 ただし、このことは逆の立場でも同様に該当することになるため、自分が商標権を取得する際には、「将来的に、取引実情を考慮して他人に商標が登録されてしまうこと」を防ぐような形で出願する工夫が必要になってくるでしょう。この点についても、今後は十分に考慮して出願手続きを行う必要があります。

 今回紹介しきれなかった部分でも、実情を考慮する点が明記された点もありますので、似たような商標が登録されていることを理由に、過去に出願を断念した商標がありましたら、これを機に再検討してみると良いかもしれません。従前では登録の可能性の低かったものであっても、今回の商標審査基準の改定により、登録の可能性が高まっているかもしれません。

 最後に、本記事は、知的財産権を扱われていない方が概要を容易に理解できることを目的としておりますので、厳密な意味で正確ではない表現を用いている場合や、例外ケースに関する説明を省略している場合、前提条件の説明を省略している場合等があります。このため、全体の傾向や概略を理解する目的で参考にしていただき、実際の事例について判断される場合には、必ず専門家にご相談下さい。
 また、本記事についての、ご意見・お問い合わせ等ございましたら、下記ご相談・お問い合わせフォーム又はお電話にて、担当江口までお気軽にご連絡下さい。